Shigeru Hasegawa

アフガンボックスカメラワークショップに参加してきました

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よく晴れたゴールデンウィークのとある日、スカイツリーのほど近くにあるバックヤード・プロジェクトという写真家さん達の共同スペースで開かれた、アフガンボックスカメラという変わったカメラのワークショップに参加してきました。

僕を含めて当日の参加者は7名。写真家さんや雑誌社の方など、やはり何らかの形で写真に関わっている方が多いようです。まずはバックヤード・プロジェクトでプロジェクターを使って簡単にアフガンボックスカメラの成り立ちとその仕組みの説明を聞きました。アフガンボックスカメラというのはその名の通りアフガニスタンで使われていたカメラで、デジカメの無い時代に町の写真屋さんが使用していたものだそうです。政情不安やデジタル化の波などによって絶滅しかけていたこのアフガニスタン独特の文化をオーストラリアの写真家が発掘し、最近になってクラウドファンディングを使って世に広めたのだとか。これを知った今日の先生二人がご自身でそれぞれ自分のアフガンボックスカメラを作り上げ、ワークショップ開催に至ったとのことです。

座学が済んで、アフガンボックスカメラを(先生が)抱えて近くの公園へ。本当によく晴れて暑いくらいです。明るい光がたっぷりと注ぐこんな日は、アフガンボックスカメラを使うのに最適な日だということをすぐに理解することになります。

さて公園に着きますと、設置する場所を選ぶ必要があります。アフガンボックスカメラで撮影する場所は

あたりを考える必要があるようです。カメラを設置したら、撮影の準備です。

こちらは担当してくださった前田先生のアフガンボックスカメラ。カメラの蓋を開いて、中にネガ印画紙、現像液、定着液を用意します。印画紙はもちろんこの時点で感光してしまわないよう、黒い袋に入れた上で箱に収められた状態です。現像液が右側なのは、蓋についている覗き穴の位置に合わせるためです。また後部のファインダー窓は開閉可能になっていて、扉自体は赤い半透明のプラスチックになっています。赤い光は印画紙に反応しにくいためです(全く反応しないわけではない)。準備ができたら蓋をしっかり閉めます。

カメラの後ろからファインダー窓を開いて覗いてみたところ。この写真は箱の手前側にピントが合ってしまって残念な感じですが、実際は箱の中のファインダーにカメラの前の景色がとても美しく上下左右反転した状態で映っています。反転しているのはレンズを通して見ているからですね。

こちらは會田先生のアフガンボックスカメラ。構造は一緒ですが、横開き、ファインダー窓がレンズ、ピントスクリーンに印画紙をセットしやすいフレームがあるなど、いくつか違いがあります。作り手の個性がカメラに反映されるのもアフガンボックスカメラの面白いところですね。

こちらは使用した印画紙。富士フィルムのキャビネ判の号数紙を半分に切ってあります。ネガ印画紙というのがポイントです。ネガのプリントを一体どうやってポジに反転するのか?その答えは実にシンプルなものでした。

さて準備ができたら撮影です。カメラの位置、角度、ピントスクリーンの位置を調整して、被写体がピントスクリーンに正しく写っているように設定します。被写体が人間の場合、被写体にもご協力をいただいて位置などを微調整します。ピントの位置が決まったら、上の写真にあるようにピント調節棒に洗濯バサミをつけてピント位置をメモしておきます。

次にレンズキャップを付けるなどしてカメラ内部を全暗状態にし、一旦スクリーンを後部に移動させて作業用の穴から手を突っ込み、ピントスクリーンの前側に印画紙をセットします。この作業は印画紙が感光してしまわないようにするため、完全に手探りで、

  1. 印画紙を箱から1枚取り出す
  2. 印画紙の袋と箱をしっかり閉じる
  3. 印画紙をピントスクリーンに正しく取り付ける

という工程を行う必要があります。印画紙は表と裏があり、また取り付け位置が悪いと像の写る位置も片寄ってしまうので、事前に十分練習しておかなければなりません。印画紙をセットできたら、ピントスクリーンの位置を元に戻します。

普通の写真用フィルムの感度は400くらいですが、今回使用するのはネガ印画紙。感度は実に6程度しかありません。しかも被写界深度つまりピントの合う範囲が狭く、なるべく絞りを絞る必要があります。必然的にとても長いシャッター時間が必要になります。コンディションは正午過ぎ、晴天、木陰。先生の判断で、露出の設定は絞りをf16、シャッタースピードは2秒となりました。カメラにシャッター機構は無いので、代わりにレンズキャップ設定した時間だけ外して露光させます。

撮影が済んだら現像です。再びピントスクリーンを後部に移動させ、手を入れて印画紙を取り外し、カメラの中に用意しておいた現像液のバットに入れます。このとき役立つのがカメラ上部の覗き窓で、光が漏れないよう眼をぴったりとここにつけて覗くと、真下にある現像中の印画紙の様子を確認することができます。現像が進み過ぎると印画紙が真っ黒になってしまうので、ここで現像液から引き上げる頃合いを見計らうわけです。印画紙に現れた像の濃さが適度になったら、隣の定着液のバットに移動して、1分ほど定着処理をします。

ここまで済んだら、やっと蓋を開けて結果を確認できます。出来上がったネガを見て一同驚きの声。しっかり写っています!先生を除き全員初めてのわりに、それぞれ特に大きな失敗もなく順調な出だしです。

こちらは僕が撮影させてもらった別の参加者さんのネガですが、初めてにしては良い出来ではないでしょうか。階調もよく出ています。

さて、どうやって出来上がったネガをポジにするか。その答えは「ネガを撮影する」でした。カメラのレンズの前に複写用の板を取り付けられるようになっており、そこに出来上がったネガを貼り付け、それを再度撮影するのです。ピント合わせから現像までは撮影時の手順と同じ。実にシンプルです。

こうして複写が完了すると、めでたくポジの完成となるわけです。このポジは印画紙の取り付け位置が悪かったため、下に複写台の板まで写ってしまっていますね。

ネガの印画紙を使う利点がここにあって、一枚のネガを作成したら、条件を変えてポジを何枚も作ることができます。ここはフィルム写真と同じ考え方ができるわけです。実際、過去には複製時に焼き込みや覆い焼きなどが行われていたようです。

実に滞り無くお互いの撮影が済んでしまったので、ここからは各自のクリエイティビティを発揮して移動しながら好きな物を撮ってみようということになりました。

公園に来ていたおじさんを撮ってみたり。

どこまで接近して撮れるか試してみたり。

どこまで恐ろしい写真が撮れるか試してみたり。

僕は前田先生にモデルになっていただき、木々の間に立ってもらって撮影してみました。これがネガ。紙はL版程度の大きさです。引き伸ばしレンズのイメージサークル(投影像)の大きさがはっきりわかりますね。

こちらがポジ。我ながらなかなか雰囲気のある写真ではないでしょうか。肉眼では木々の間にビルが見えたのですが、うまい具合に白飛びしてくれました。この引き伸ばしレンズは確か焦点距離80mmだったと思いますが、35mm判換算では24mmくらいになるようで、かなり広角です。もうちょっと近づいて撮ればよかった。

こちらは二股の樹を近くで絞り開放で撮ってみたもの。ピントとカメラの角度が少しずれてしまったようで、思うような効果が得られませんでした。しかしネガはとてもシャープですね。

最後は皆で記念撮影。日が暮れていく中での撮影だったので、露光時間は20秒にもなりました。左から2番目の前田先生が透けて見えるのはシャッター係だったからで、レンズキャップを外し→ダッシュで列に加わり→露光を待ち→ダッシュしてレンズキャップをはめる、という軽業を演じなければならなかったため。出来上がった写真は、撮影時期がいつだかわからないようなビンテージ感あふれる写真になりました。印画紙に直接焼き付ける写真というのは、フィルム写真ともまた違った質感があるようです。

ワークショップ終了後は浅草の有名なビルに繰り出して打ち上げ。最後までとても楽しい一日でした。一緒に参加した方の一人は、既にマイアフガンボックスカメラのプロトタイプを作成しているようです。僕も自分のアフガンボックスカメラを構想中です。ひとまずなるべく簡単な構造で作ってみようと思っています。


非常に充実した内容のワークショップでした。今のところ次回の予定は未定だそうですが、興味を持たれた方はバックヤード・プロジェクトをチェックしてみてはいかがでしょうか。自分の手で、その場でプリントを作り上げる面白さは他にないものだと思います。写真の基本がわかりますし、カメラは光を捉える装置だということが非常によくわかりました。ただ写るということがこんなに面白いというのもなかなか体験できないことではないでしょうか。

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