もうすぐ取り壊しになる銀座のビルを使った展示会、The Mirrorを観てきた。あまり大きくはないが、古めかしく温かみの残るビルの6階全てを使った展示。観客は一階ずつ各階4部屋ほどで構成された展示を順に観ながら登ってゆく構成。

まず興味を惹かれたのは3階の建築家藤森照信氏のプロジェクト。オーストリアには屋根に巣を造ってアフリカから渡ってきたコウノトリを迎えるという文化があるそうで、氏はここに「鸛庵(こうのとりあん)」というゲストハウスを造る計画を立てる。曰く「最初に立てた計画通りに全てを進めることはない。造りながら臨機応変に変えていく」「建築というのは現代の最先端の工業製品で唯一、素人でも参加できる分野。車や飛行機ではそうはいかない」。家の壁に紙を貼って、その前に椅子を置き、考えつつ壁に鉛筆を走らせつつ暖炉のデザインを決めていく氏の姿を映像で観るのは楽しかった。造りながら決めていく。最初に全部決めなくてもいい。

全展示中で最も素晴らしかったのは5階で、チベットの画僧が描いたという精密な仏画と、アニッシュ・カプーア氏のステンレス製の現代彫刻が同軸上に配置されている。伝統と最先端。複雑性と簡潔性。意味と無意味。様々な点でコントラストの高い対比となっていて印象的だ。仏画は教義を語るべく描かれ、観るものに全ての意味を読み解くことを要求するが、彫刻は無題とされていて、観るものの好きなように受け取ることのできる自由がある。在り方は真逆であるのに、どちらにも万人を受け入れる包容力と美が備わっているのが興味深い。

いずれも簡潔な展示だったがそれぞれの展示が楽しくいい展示会だった。ビルの歴史の最後にこういう企画が行われるというのはとてもいいことだと思う。定期的に開かれれば観に行きたかったがこれが最後というのが惜しまれる。